2023年8月の記事一覧
令和5年度 休み明け集会あいさつ 《学びの回路を開くために》
皆さんは今年の暑い夏休みをどのような思いで過ごしたでしょうか。多くの生徒が、夏の間も農場当番や販売実習、そして全国大会や地区大会など部活動大会をはじめ、農業クラブや家庭クラブ活動など、多方面で活躍してくれました。新型コロナ感染第七波が再拡大していた昨年の夏がもう遠い過去の話のようですがまだまだ油断することなく、気を抜くと感染リスクがすぐ近くにある状況です。これからの学校や寮生活でも引き続きお互いに気を遣いながら過ごしてほしいです。特に、3年生は進路決定の大事な時期ですので、健康管理をしっかりと万全の態勢で臨んでください。
さて、私自身この夏に考えたことが大きく2つありました。一つは「地球温暖化」、もう一つは「平和」についてです。
世界的に毎年の暑い夏と集中的な豪雨や火災など自然災害が続いています。自然環境や生態系の変化が確実に進んでいることを実感します。昨年まではコロナにばかり注意が集中していましたが、特に、農業教育に携わる私たちはこの状況に無関心ではいられません。温暖化の原因には、自然要因と人為要因の両面あるといわれていますが、大きく言えば、近代化の産業革命以降、発電、工業化、森林伐採、大量生産・大量消費など人間が自然を支配し、利便性を最優先してきた結果ということなのです。ではどうしたらいいのか? このことは、私たちがよくよく考え広く議論し、適切な行動を起こしていかなければならないのです。世界の心ある知性は、この深刻な問題に対してかねてから警告を発しています。私たちも学校での学習を通じて、世界の喫緊課題の解決に取組む必要があるのではないかと考えています。
次に、「平和」についてです。先月、ユネスコという組織を通じて韓国を訪問しました。訪問の目的は、韓国の教育者や高校生と意見交換しながら、持続可能な世界について考えることでした。またその際、DMZ(非武装地帯)と呼ばれる北朝鮮との軍事境界線を視察し、そこで二十歳前後の兵士から状況の説明を受けたりしました。1953年の休戦協定で設定された韓半島を南北に分断する38度線を目の前にした時、それが過去形の歴史ではなく、現在も進行する壁であることを目の当たりにしました。停戦合意をしていないため、今も事実上の戦争状態が続いていることになります。そのため、韓国には徴兵の義務がある。このことについて、韓国の高校生ともディスカッションもしました。彼らは世界の様々な状況に真剣に考えを巡らせていました。私たちも高い意識を持って学ばなければならない。人間には対立を乗り越える知恵があり、粘り強い対話と交流。こうした努力を積み重ねて相互理解を深めていくことが何より大切名のだと実感した次第です。本校は韓国に姉妹校があり、30年以上の交流を続けてきました。こうした機会を生かしながら、日韓相互の理解をさらに深めていきたいものです。
最後に皆さんにお伝えしたいこと、それは、何のため皆さんは学ぶのか? と言えば、第一義には皆さん自身の自己実現のためです。それぞれの目標や夢を叶えるには毎日の努力が大切です。しかしながら、勉強するということは自分事だけにとどまらない広い意味がある。それは自身の世界を学習を通じて広げていくことなのです。つまり、「学びの回路」を外側に開いていくことで、今どんな世界に生き、ここで学んだことが世界の人たちとどんなふうに繋がり、それが何をもたらすのか? ということへの想像力が生まれるのです。ここでいう“学び”とは、学校で行われるすべての教育活動―教科学習、農場実習、学級活動、部活動、寮活動などです。そして大事なことは、何でも興味を持って取り込んでみる。それが必ず未知の世界につながる通路となり、人間と自然が健全に共存する持続的な世界のための行動となります。ぜひ皆さんには加美農で学んだ事を生かして自己認識を拡大し、未来の担い手になっていく。願わくば、皆さん自身が主体となって世界の課題に貢献し、よりよい世界を築いていく。それが学習の根になるはずです。
皆さん一人一人の学びが、持続的な日本の農業や社会の改善に繋がるのです。このことを心に留めながら、今後の学習に励んでほしいと思います。