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校長通信「耕心だより」

令和5年度卒業式 式辞

 今年の冬は心身を凍てつく厳しい雪の試練もほど遠く、思いのほか穏やかな冬となりました。気が付けばいつしか立春も過ぎ、遠く船形連峰や薬莱山の山肌にも確実に新しい季節の日差しが差し込み、本校農場各所でも待ち望んだ春の訪れを実感させる芽吹きの季節となりました。

 このような弥生の佳き日、これまで本校教育活動に多大な御協力をいただいた多数の御来賓の皆様、並びに御支援をいただいた保護者の皆様が一堂に会し、令和五年度加美農業高等学校卒業式をかくも盛大に挙行できますことは、卒業生はもとより在校生、教職員にとりましてもこの上ない悦びでございます。

 ただ今、高等学校三カ年の全課程を修了し、卒業証書を授与しました農業科十三名、農業機械科二十名、生活技術科 六名の卒業生の皆さん御卒業おめでとうございます。教職員一同、卒業生の門出を心より祝福いたします。

 本日手にした卒業証書は、校訓「耕心」のもと本校三カ年の教育課程を修めた証しです。それはそれぞれの努力だけでなく、遠く近くで励ましてくれた仲間や恩師、常に深い愛情で支えてくれた家族、温かい眼差しで見守ってくれた地域の皆様によって育まれた結晶でもあります。その達成と感謝を誇りとして心に刻んでほしいと思います。

 思い起こせば、二〇二一年春の入学。皆さんの高校生活は三度目の緊急事態宣言という不安の中、全員がマスクを着用した緊張感の中でスタートしました。皆さんの脳裏に去来する記憶には、多くの自粛と忍耐があったものと推察します。そうした中でも、本校の自然豊かな農場での部門実習や地域の方々との交流学習、初めての耕心寮での居室生活など普通高校では決して味わうことのできない豊かな経験を積み重ねてきました。互いを思いやる優しさとともに、寮生活の規律の中で仲間たちと語らい過ごした格別の時間など、かけがえのない思い出を作ってきたものと思います。このように自然に抱かれ、周囲に見守られている特別な生活を体感できたのは、本校創立百二十三年の伝統と、加美色麻の自然の感化力であることに違いありません。 

 まず今年度特筆すべきは、世界を長く覆い苦しめてきた新型コロナウィルスが変異とともに弱毒化し、昨年五月二類から五類へ移行したことです。このことによって社会的制約が大きく緩和され、ようやく日常生活を取り戻す兆しを得ました。それに伴い、それまで閉塞を余儀なくされてきた学校活動も大きく解放されました。本校では農業高校の根幹を形成する全校田植え、加美農祭、収穫感謝の会。そして修学旅行や部活動の諸大会など、これら学校行事を一致団結して実行することができたのは何物にも代えがたい悦びでした。

 また、学校農業クラブや家庭クラブ活動の成果として、平板測量競技会で県大会三連覇・全国大会出場を果たしました。農ク全国家畜審査競技(乳用牛の部)では十三年ぶりとなる優秀賞に輝く快挙を達成。家庭クラブでは宮城県高校生地産地消お弁当コンテストにおいて、本校自慢の食材を生かした「みやぎのうまい あっ!pull弁当」で二年連続本戦出場を果たし、その個性的な食味は大きな評価を得ました。また、機械班が取り組んできた手作り省燃費自動車競技では二年連続完走の二位となり、工業高校や専門大学にも引けを取らない技術的完成度の高さを示しました。

 さらに今年一月、近年、農業機械科が色麻町と共同で取組んできた獣害対策事業の実績により、「アグリテック甲子園」第一次審査を通過し姫路市において開催された本戦に出場。結果、錚々たる大学高校のプレゼンを抑え、見事最優秀賞+テクノロジー賞の最高賞に輝き、本校課題研究の高みを県内外に示しました。他にも各部門の特色を生かした連携事業や地域商店とのコラボレーション商品、新メニューの開発などが実を結んでおり、今後の進展が大いに期待されます。また、デジタル分野における研究の試みも進んでおり、韓国の高校とのグローバルな学習連携も視野に入れています。

 こうした取組みとともに、本年一月には韓国教職員の親善訪問受入れを実現することができました。“近くて遠い国”とも称される日韓交流に際し、韓国訪問団の先生方は実に熱心に私たちに思いを寄せ、多大な教育的恩恵をもたらしてくれました。初めはお互いに距離がありましたが、授業の最後に同じアジアの仲間として親しい信頼関係を築くことができたのは、互いに敬愛の念を抱き心の窓を全開に、それぞれの立場や価値の違いを認め合うことができたからだと思います。実にこの訪問は「平和実現」というユネスコの崇高な理念によって繋がっていたのです。国境を越えた信頼と立場の異なる人々との連帯こそ、真に世界が求める理念に他なりません。それ程にこの日韓交流は、本校の歴史にも教育的意義を残してくれました。

 ひるがえって、人類がこの地球上で特別な地位を獲得したのは、今から約一万二千年前とされています。農耕技術の定着とともに定住型コミュニティが成立し、安定した生産性を実現していきました。以後、人類は豊かさを追求して現在に至ります。しかし近年に至って、「高い知性を持つはずの人間が自分たちの住む地球を破壊してしまっている」という逆説を警告するのは、今年で齢九十を迎える英国の動物行動学者ジェーン・グドール氏です。これこそSDG‘sが掲げる地球課題であり、私たちと次代を担う「地球市民」に課せられた共通のミッションでもあるのです。

 そしてもう一つの課題は、自然破壊に伴う地球環境の変動です。昨年夏の鮮明な記憶として、猛暑が北半球を襲いました。気象庁観測史上で最も暑い夏を記録し、私たちの皮膚感覚としても「これまでの夏とは明らかに何かが違う」と直感するほどに暑い夏でした。この影響により本校で飼育している乳牛が倒れ、農作物にも例年にない影響が出ました。自然環境をコントロールできるほど人間は尊大には生きられません。だからこそ人間も、この地球に生きる多くの生命体の一部であることを肝に銘じなければなりません。そして農業を学んだ皆さんだからこそ、持続可能な地球環境の改善を志向していくことができる。この気高い実践こそ、これからの農業教育が示す一つの指標なのだといっても過言ではありません。

 近く未来を見渡せば情報技術はさらに進展し、生成AIが日常生活のスタンダードとなりつつあります。しかしそれは、利便性の向上となっても、人間精神の安寧はもたらさないだろうことを私たちは直感しています。それ故に重要だと考えるのは、他者との関わりの中で借り物ではない「自立した言葉」を立ち上げ、閉塞した精神を広い世界へ解き放っていくことです。どんなに未成熟であろうとも、生きた言葉は人々の心を動かし、この世界を変え得る「共感力」を持つのです。

 その一つの証左として、昨年の夏、私は一冊の書物と出会いました。萩原慎一郎という才能溢れる歌人の『滑走路』と題された歌集です。中高一貫の難関中学受験を突破し、順風満帆と思われた少年を待ち受けていたのは級友からの壮絶な「いじめ」でした。靴は隠され鞄はゴミ箱に捨てられ、暴力を受ける毎日に心身を病んでいきます。以後、高校卒業時まで苛烈ないじめに堪えた孤独な青年が拠り所としたのが短歌の世界でした。十七歳で短歌創作と出会い猛烈な勢いで言葉を紡ぎ、三十一音の中に自身を解放していきます。

 「だからぼくは歌うんだと思います。誰からも否定できない生きざまを提示するために」と宣言。以後数々の入選で注目されます。三十二歳で、十五年詠み溜めた約二千首のうちから三百首近くを自選し、二〇一七年に出版。これが記念すべき第一歌集の『滑走路』です。この歌集のページをめくると、中高のいじめ体験から立ち上がり、その後、非正規労働者として懸命にもがき生きた言葉の数々が一直線に離陸し、多く人々の人生の奥底に沈潜していきました。『滑走路』からいくつか短歌を紹介したいと思います。

  抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ

 癒えることなきその傷が癒えるまで癒えるその日を信じて生きよ

 「悲しみ」とただ一語にて表現のできぬ感情抱いているのだ

 非正規という受け入れがたき現状を受け入ながら生きているのだ

 本日、高等学校での学習は区切りとなります。しかしそれは完結でありません。今後皆さんはそれぞれの場所において、新しい課題と向き合い、主体的に学び続けていくことになります。その際大切にしてほしいのが言葉です。私たちはこの歌人と同じように、不屈の精神によって己の人生を構築し、混沌とした未来に立ち向かっていくための「言葉」を打ち立てていくこと。そのことを願ってやみません。

 そんな皆さんに最後のメッセージです。それは「弱き者への慈しみ」を持つということです。慈しみとは、「相手をいたわり思いやる気持ち」ことのです。これまで出会った人たち、これから出会う人たちに対して、慈しみを忘れずに接してください。そして皆さんの行く手にどんな艱難が待ち受けようとも、この慈しみの心をもってすれば、大地に根を下ろす優しさと強さを発揮していけるはずだと確信しています。自信を持って進んでください。

 最後になりますが、保護者の皆様へ一言お祝いを申し上げます。これまで本校教育活動にあたり、数々の御支援にあらためて厚く御礼申し上げます。三年間を全うし心身たくましく成長した御子様方は本日卒業となりますが、これからも加美農業高校は本県農業教育の最良の教育機関としての使命を全うすべく、さらなる前進を重ねていく所存でございます。今後とも遠くより御支援を賜りますよう、心よりお願いを申し上げる次第でございます。

 結びに、本日御臨席の御来賓の皆様ならびに保護者の皆様方のご健勝と、三十九名の卒業生全員の前途に幸多からんことを祈念いたしまして、式辞といたします。

 

令和六年三月一日    

宮城県加美農業高等学校

校長  根 岸 一 成

 

(参考文献)

 萩原慎一郎『歌集 滑走路』(りとむコレクション102)2017年角川書店刊

初等中等教職員国際交流事業 「韓国教職員招へいプログラム」歓迎挨拶

 宮城県加美農業高校教職員を代表して、歓迎の言葉を申し上げます。私は学校長の根岸一成といいます。お会いできてとても嬉しいです。

 まずはじめに、1月1日、石川県能登半島地震で被災された皆様に心からのお見舞いと、一日も早い復興をお祈り申 し上げます。また韓国政府からも、お見舞いの言葉と多大な人道支援が送られましたことに心から感謝を申し上げます。

  さて、歴史ある「韓国教職員招へいプログラム」が、ここ加美農業高校で開催できますことは、教職員及び生徒に とりまして大きな喜びです。ご尽力いただいた韓国教育部、韓国ユネスコ国内委員会の皆様、そして日本国文部科学省、ユネスコ・アジア文化センターの皆様をはじめ、ご協力いただいた駐仙台大韓民国総領事館、仙台韓国教育院の皆様のご尽力に心から感謝を申し上げます。

 本県は2011年に発生した東日本大震災からの復興の途上にあります。そうした中で世界は新型コロナウィルスによるパンデミックに見舞われました。学校教育においても直接活動が奪われました。何より残念だったのが、大韓民国水原農生命科学高等学校との交流が中断したことです。本校は1991年以来、同校と姉妹校を結び、30年以上にわたり教育の親善交流を重ねてきました。その記念のしるしに、両校の庭には元々韓半島にあって伊達政宗が松島に持ち帰ったとされる臥竜梅(がりゅうばい)を本校で接ぎ木し、それを日本から水原にも届け返しました。毎年3月には両校の庭に美しい薄紅の花を咲かせ、はるかな国へ思いを募らせています。

  今日、親愛なる大韓民国から大勢のお客様をお迎えして交流できることは、私たちに喜びと活力をもたらしました。今回の訪問で皆様にとって宮城県が、日本のふるさととなり、本校が心のふるさととなるよう、全校で真心をこめてお迎えの準備をしてまいりました。

 自然豊かな大地に建つ本校は、農業を専門に学ぶ123年の伝統校です。本校での教育交流を通じて、皆様と共に「友好」の土を耕し、「平和」の種を植え、心を寄せ合って大輪の花を咲かせていきたいと念願しております。

 今日一日、外の白い雪のような真っ白な気持ちで友情を育み、たしかな交流の始まりとなることを確信し歓迎の挨拶といたします。

 

                        2024年1月17日                      

宮城県加美農業高等学校校長 根岸 一成 カムサハムニダ!

 

令和5年度休み明け集会 <<甲辰を迎えて平和を想うー令和6年の感慨->>

 新年おめでとうございます。

 2024年の干支は甲辰(きのえたつ)です。辰は万物の活力や成長を象徴するとされる空想上の生き物です。今年はどういう1年にしようかと考えている元旦の、午後4時頃。石川県能登半島を震源とする地震が発生しました。マグニチュード7.6、最大震度7の巨大地震です。家を失い現在も厳しい寒さの中で苦しい避難生活を余儀なくされ、生活物資も届かない地域もあると報道されています。東日本大震災を経験した私たちにとって、他人事ではありません。能登の地震で犠牲になられた方への哀悼の意と、1日も早い支援と回復を祈るばかりです。今私たちに必要なことは、北陸地方で被災した皆さんへ〈連帯〉の思いを寄せながら生活することだと思います。ぜひ心の中にそういう人がいることを留めてください。

 このように,人生には思いがけない苦難が何度も押し寄せてきます。昨年の世界を見渡しても、異常気象や自然災害、紛争、そして長く世界を閉塞させた感染症コロナウィルスの繰り返しの猛威など、世界は想像を超えた事態に繰り返し直面しています。そしてその都度、世界の人々は国境を越えて英知を寄せ合い、助け合って連帯を志向してきたのです。そういう共生の意志がなければ、世界は今日のような日常生活は迎えられなかっただろうと思います。

 さて年が改まり、加美農の歴史をさらに前に進めていきたいと念願しています。特に3年生は高校生活の最後の仕上げとなります。加美農での学習の完成を目指し悔いのない日々を過ごしてください。本校での学びは必ずや皆さんの永い人生を支える土台となるはずだからです。1・2年生も主体的になって学習の総仕上げをして年度末進級に備えてください。しっかりと伝統継承してください。

 最後に、皆さんにお知らせがあります。来週本校に韓国から約30名の訪問団が来校します。どんな人たちが来るのかというと、韓国の小中高で教える学校教員、韓国政府教育部の人たちが日本の学校がどういうものであるのか学校教育の現場を見に来るのです。なぜ本校に来るのかと言えば、長く韓国交流の実績がある本校がそれに相応しい日本の学校として選ばれたからです。本校は1991年から水原農生命科学高校の姉妹校として30年以上にわたり日韓交流を重ねてきました。さらに本訪問は単なる見学ではありません。その目的は日韓の〈友好と平和〉の実現です。国連の文化教育機関であるユネスコを通じて、その崇高な理念に賛同する人たちが来校するのです。ユネスコ憲章には次のような文言があります。「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」、そして「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり」、「この疑惑と不信のために」戦争が起こったのだと言います。つまり戦争とは、人々の心の中に生じた不信感のあらわれであり、そうならないためにも、相互の文化交流及び教育の実現によって人間の〈尊厳〉を自覚することであると言います。〈平和〉とは誰かからの贈り物ではなく、異なる立場や考えを結びつけ共に連帯しながら、意志的に手を取り合ってようやく実現する創造物なのです。

 その意味で、本校生への大いなる期待を抱いて多くのお客様が来校します。最大のおもてなしを総動員してお迎えし、韓国語での授業や歌も準備してくださっているそうです。新しい人との出会いと親善交流、ゆるぎない友好平和を確かめる1ることを心から願っています。

 以上、年始の講話といたします。

 

2024年1月9日      

加美農業高等学校長 根岸一成

後期始業式あいさつ

 記録的な猛暑が続いた夏も過ぎ、校地内を見渡せば5月に全校で田植えた若々しい苗もすっかり色づき、頭を垂れるほどの実りを迎える季節となりました。

 令和5年度も折り返しとなります。年度始めに立てた目標がそれぞれあったと思いますが、目標達成のため切磋琢磨しながら仲間とともにさらに高め合っていってください。特に3年生は進路決定の大事な時期です。健康管理もしっかりとしてください。

 今月25日からは熊本県において日本学校農業クラブ全国大会が行われます。今年度本校から、平板測量競技、家畜審査競技、農業鑑定競技の3種目に出場します。全国の大舞台でぜひ加美農生の自信と誇りをもって頑張ってほしいと思います。これまで培った練習の成果を遺憾なく発揮し、校訓「耕心」の精神で困難を乗り越え、栄冠をつかんできてもらいたいと念願しています。

 次に、2023かごしま国体に出場する相撲部の選手。選ばれた誇りを胸に、加美農代表として、また宮城県代表として堂々と挑んできてください。ここ色麻の地から遠く鹿児島県奄美市へエールを送りたいと思います。全国レベルで戦える喜びをかみしめながら全力を尽くしてほしいと思います。 

 そして今月には加美農祭が開催されます。特に、今年度は特段の制限を設けずに、校内発表だけでなく一般公開も通常形式で実施を計画しています。また初日には3年に1回の花火打上げも盛大に行います。地域の方に加美農生の笑顔と元気をぜひ見ていただきたいというのが一番の願いです。全校生徒心をひとつに、心の奥底に残る思い出となる行事にしてください。学校行事は皆さん自身が主役となって作り上げるものです。学科や学年を超え一致協力していってください。

 今日もう一つ、皆さんにお伝えしたいのはジェーン・グドールという研究者のメッセージです。イギリス生まれのチンパンジー研究の先駆けとなる学者でかつ、2002年に国連ピース・メッセンジャーとして任命され現在89才にして世界各地を精力的に巡り発言を続けています。グドールさんはこう言います。

 今の世界は閉塞感に満ち、人々は希望を失っている。今後私たちは間違いなくより暑い気候に適応しなければならない。暑すぎて作物が育たず気候難民が増えるでしょう。動物たちも移動するか、死んでしまう。気候危機は日増しに大きくなっているのに、人間は穀物を育てるために森林を開拓し、化石燃料を使った穀物を動物に与え、その肉を食卓に届けている。なぜ高い知性を有する人間が自ら地球環境を破壊し続けるのだろう、と訴えています。しかしながら、私たちは数々の障害を乗り越え、光に辿り着かなければならない、と。

 そしてこう続けます。「希望」それは類人猿から進化した人間という奇妙で矛盾だらけの生き物が手にした「究極の善」である。だからこそ私たちは「希望」を手放してはならない。希望は行動となり世界を改善していく原動力となる、その証の一つが「若者の力」なのだ、とも述べています。

 自然とともに農業を学ぶ皆さんの、さらなる成長を心から期待して後期始業式の講話といたします。

 

(参考文献)  『希望の教室』 ジェーン・グドール著・岩田佳代子訳(海と月社)

         朝日新聞インタビュー「エコグリーフの若者へ」2023年8月3日

令和5年度 休み明け集会あいさつ 《学びの回路を開くために》

 皆さんは今年の暑い夏休みをどのような思いで過ごしたでしょうか。多くの生徒が、夏の間も農場当番や販売実習、そして全国大会や地区大会など部活動大会をはじめ、農業クラブや家庭クラブ活動など、多方面で活躍してくれました。新型コロナ感染第七波が再拡大していた昨年の夏がもう遠い過去の話のようですがまだまだ油断することなく、気を抜くと感染リスクがすぐ近くにある状況です。これからの学校や寮生活でも引き続きお互いに気を遣いながら過ごしてほしいです。特に、3年生は進路決定の大事な時期ですので、健康管理をしっかりと万全の態勢で臨んでください。

 さて、私自身この夏に考えたことが大きく2つありました。一つは「地球温暖化」、もう一つは「平和」についてです。

 世界的に毎年の暑い夏と集中的な豪雨や火災など自然災害が続いています。自然環境や生態系の変化が確実に進んでいることを実感します。昨年まではコロナにばかり注意が集中していましたが、特に、農業教育に携わる私たちはこの状況に無関心ではいられません。温暖化の原因には、自然要因と人為要因の両面あるといわれていますが、大きく言えば、近代化の産業革命以降、発電、工業化、森林伐採、大量生産・大量消費など人間が自然を支配し、利便性を最優先してきた結果ということなのです。ではどうしたらいいのか? このことは、私たちがよくよく考え広く議論し、適切な行動を起こしていかなければならないのです。世界の心ある知性は、この深刻な問題に対してかねてから警告を発しています。私たちも学校での学習を通じて、世界の喫緊課題の解決に取組む必要があるのではないかと考えています。

 次に、「平和」についてです。先月、ユネスコという組織を通じて韓国を訪問しました。訪問の目的は、韓国の教育者や高校生と意見交換しながら、持続可能な世界について考えることでした。またその際、DMZ(非武装地帯)と呼ばれる北朝鮮との軍事境界線を視察し、そこで二十歳前後の兵士から状況の説明を受けたりしました。1953年の休戦協定で設定された韓半島を南北に分断する38度線を目の前にした時、それが過去形の歴史ではなく、現在も進行する壁であることを目の当たりにしました。停戦合意をしていないため、今も事実上の戦争状態が続いていることになります。そのため、韓国には徴兵の義務がある。このことについて、韓国の高校生ともディスカッションもしました。彼らは世界の様々な状況に真剣に考えを巡らせていました。私たちも高い意識を持って学ばなければならない。人間には対立を乗り越える知恵があり、粘り強い対話と交流。こうした努力を積み重ねて相互理解を深めていくことが何より大切名のだと実感した次第です。本校は韓国に姉妹校があり、30年以上の交流を続けてきました。こうした機会を生かしながら、日韓相互の理解をさらに深めていきたいものです。

 最後に皆さんにお伝えしたいこと、それは、何のため皆さんは学ぶのか? と言えば、第一義には皆さん自身の自己実現のためです。それぞれの目標や夢を叶えるには毎日の努力が大切です。しかしながら、勉強するということは自分事だけにとどまらない広い意味がある。それは自身の世界を学習を通じて広げていくことなのです。つまり、「学びの回路」を外側に開いていくことで、今どんな世界に生き、ここで学んだことが世界の人たちとどんなふうに繋がり、それが何をもたらすのか? ということへの想像力が生まれるのです。ここでいう“学び”とは、学校で行われるすべての教育活動―教科学習、農場実習、学級活動、部活動、寮活動などです。そして大事なことは、何でも興味を持って取り込んでみる。それが必ず未知の世界につながる通路となり、人間と自然が健全に共存する持続的な世界のための行動となります。ぜひ皆さんには加美農で学んだ事を生かして自己認識を拡大し、未来の担い手になっていく。願わくば、皆さん自身が主体となって世界の課題に貢献し、よりよい世界を築いていく。それが学習の根になるはずです。

 皆さん一人一人の学びが、持続的な日本の農業や社会の改善に繋がるのです。このことを心に留めながら、今後の学習に励んでほしいと思います。

令和5年度 入学式式辞

 ただいま,入学を許可いたしました農業科20名,農業機械科18名,生活技術科8名の新入生の皆さん,入学おめでとうございます。皆さんは高校入試の関門を突破し,本校入学の日を待ち望んでいたものと思います。新たなステージとなる高等学校が今日スタートします。本校には耕心寮という素晴らしい寮教育もあります。自己を高める教室・農場とともに,共同生活の場である寮があり,本校は三つの教育機能を有しています。志を同じくする仲間とともに,学習や行事を通してこれからの未来を力強くしなやかに描いていってほしいと願います。教職員・在校生一同,新入生一人一人を心から歓迎するとともに,加美農生として共に学べる喜びを実感しているところでございます。

 さて,加美農業高等学校は,明治33年の開校以来,今年で123年の歴史を刻んで参りました。長い歴史と伝統を誇る本校は,農業のスペシャリスト育成を担うため,地域の皆様からの期待に応えるべく日々進化していくことを使命としております。その使命を実現するために,自身の心を耕すという意味で,『耕心』という言葉が校訓となっています。土を耕すのと同じように心を耕す。本校はこの校訓のもと,地域を支える有力な人材の育成を目指しております。これまで実に多くの卒業生が,地元はもとより,県内外,各方面で活躍されております。また本校の長年の取組に対して昨年度,キャリア教育優良校として文部科学大臣表彰を受けました。これは特に,地域連携,異校種間連携による農業教育の充実と郷土愛の醸成,産学官連携によるブランド米の創出など学校の枠を超えた取組を行っていることへの評価でした。新入生の皆さんも,今日から加美農業高校の一員として常に高い志を持ち,多くの先輩方と同じように,社会の中枢で活躍できる有能な人材として未来に羽ばたいていくことを期待しています。

 ここで,これからの本校を担う新入生の皆さんに,メッセージを二つ贈りたいと思います。

 一つは,「〈生命〉の尊重」ということです。

 加美農では,他校にはないこの広大なる自然の中で,生きとし生けるものすべての生命を慈しみ,尊重する学習が日々展開されています。農業教育の根本は命に向き合う学習です。自然や生き物の命を慈しみ,ひたむきに生きている人がもっとも尊いのです。自然の中で,教室の中で,寮の中で,自然や生き物そして何よりも自分自身との対話を通して,ゆるぎない自己を確立していってください。本校での学びは,必ずや皆さんの夢の実現のための礎となるものと確信しております。

 そしてもう一つは「〈自己限定〉を打ち破る」ということです。

 高校生活において心がけてほしいこと,それは「私はここまでだ」とか「どうせ自分は」いった自己限界を取り払い,自身の無限の可能性を信じて掘り下げていく粘り強い精神を持っていてほしいのです。それが高校生に与えられた特別な権利=青春の特権なのです。

 これまでの3年,未知のウィルスの出現は世界の日常を一変しました。皆さんの中学校生活も思い描いたようにはいかないことも数々あったろうと思われます。そうした中にあっても,人間の生命力と回復力は無尽蔵なのです。人類は逆境を乗り越える復元力を備えているからこそ,幾多の苦難を乗り越え,今日まで営々と生活を築いています。それゆえ,皆さんにとっての高校入学は新たな誕生=《再生》ともいえるのです。恐れることなく,新しい自分探しの旅に出てほしいと思います。

 さて,農業には人と人,あるいは人と土地を繋ぐ,〈関係を育む力〉を有していると言われます。農業とは人間の命の営みを支える分野であるとともに,人と人の心をつなぎつき動かすダイナミズムをも有しています。だからこそ,農業を通じて人と人がつながり,農業の分野から世界の本質が見えてくるのです。これからの未来に豊かな実りが実現できるように,私たちは繰り返し希望の種を蒔き,大地に根ざす力を尊び,堂々と理想の志を掲げ続けていかなければなりません。そのためにも,本校校訓「耕心」が示す,よく土を耕そうと志す者はまず心を耕さねばならないという学びの本質を,本校の広大な自然環境の中で実現していくことを心から願って止みません。

 最後になりますが,保護者の皆様に一言お祝いを申し上げます。改めましてお子様のご入学おめでとうございます。これまで大切に育ててこられたお子さまが生き生きと,実りある高校生活が送れるよう,教職員一同,誠心誠意尽くしていく所存でございます。学校とご家庭が同じ目線。同じ願いを持ちながら,一人一人の成長を促していけますよう,ご協力のほどお願い申し上げます。

 最後になりますが,ご来賓の皆様並びにご参列の皆様に,今後とも本校の教育活動に対しまして,なお一層のご理解とご支援を賜りますよう重ねてお願いを申し上げまして,式辞といたします。

令和5年度 始業式あいさつ

 先ほど新任式にて,17名の新転任の先生方を紹介いたしました。

 また本日午後には,46名の新入生が入学してきます。新入生は高校生活への大きな期待と同時に不安も抱えているはずです。先輩である皆さん一人一人の溌剌とした姿が,本校生のお手本になります。後輩を導くよき先輩として後輩を暖かく迎え入れてほしいと思います。 そして私自身,加美農でのこの1年の間で多くことを教えられ感動ももらいました。また皆さんの真剣な取り組みを目の当たりにしてきました。今年度新たにお迎えした先生方とともに,加美農の新たな歴史を築いていってほしいです。

 始業式にあたり,私から皆さんへ2つのメッセージを伝えます。

 1つは,新年度からマスクの着用も含めて,新型コロナウィルスへの対応は大きく変化しました。学校では,引き続き感染対策はしながら,マスク着用については原則的に任意とするものの,引き続き周囲への思いやりのある行動をお願いします。特に,学校行事・寮行事についてはフルに戻し推進します。そのためにも,皆さん一人一人の日頃の頑張りが必要です。準備も含めてやるのは皆さん自身です。なぜなら,学校行事は本来生徒のものだからです。失敗を恐れず,仲間と協力し,2倍の努力,1人2役3役で,果敢にチャレンジしてください。成長し変化し続ける皆さんに期待しています。

 2つめは,本校と韓国の繋がりについてです。

 韓国水原市にある,水原農生命科学高校は本校の姉妹校で,30年以上にわたり交流を深めてきました。2年ほどコロナで途絶えましたが,昨年度リモートによる交流再開を果たしました。今年度秋には韓国から高校生が来校し,様々な学習・文化の親善交流を行う予定となっています。ぜひ楽しみにしてほしいのと,できるならば,韓国語を習得したり韓国の歴史文化(もちろん,日本についても伝えられるように)予習をしたり,個々人で勉強をしていてほしいのです。近くて遠い見知らぬ国ではなく,同じアジアの隣国として,相互理解を深めお互いに平和を築いていくことが重要です。

 1つのエピソードをご紹介します。

 本校バイオ棟前に,1本の梅の木が植えられています。物語は,今から400年以上前の豊臣秀吉の時代,仙台藩伊達政宗も3千の兵を朝鮮に出兵するという歴史がありました。朝鮮出兵です。政宗はその際に梅の木を持ち帰ったとされ,それを松島瑞巌寺の境内などに植えたといいます。その姿が「臥せた龍」に似ているところから「臥龍梅」と名づけられた紅白対の見事な梅の木があります。

 かつて,韓国からの高校生が瑞巌寺を訪れた際に,「この梅の木をぜひ里帰りさせたい」と熱望したそうです。その思いに応えようと,加美農生は本校バイオ部門での知識を活用して,許可を得て瑞巌寺の梅を接ぎ木をし,生長点から多くの苗を育てたそうです。それを翌年,加美農生訪問団が韓国の高校へ持って行き,その苗が校庭に植えられたと聞いています。接ぎ木した記念の苗が,両校の親善友好の証として今も大切に育てられているのです。今から30年も前のお話です。

 あらためて本校校訓「耕心」の原点に立ち返り,土を耕すように,自らの心を耕していくことそれは皆さんの一生の財産となるはずです。人の2倍の努力,1人2役以上で令和5年度加美農の主役となり,学習,実習,部活動,寮生活,農業クラブ・家庭クラブを盛り上げていってほしいと思います。

令和4年度修業式(講話) 「人は何のために生きるのか」 ~内村鑑三の言葉を手がかりに~

 まずは進級おめでとうございます。それぞれ学年が1つ上がり,四月には新入生を迎え,上級生としての自覚をしっかりと持ちながら,加美農をさらに盛り上げていってほしいと思います。

 さて皆さんは,「何のために勉強するの?」と問われたとしたら何と答えるでしょう。勉強の目的はそれぞれだと思いますが,「なぜ勉強するのか」という問いは,「なぜ生きるのか」という問題にもつながる根源的な問いです。人はなぜ生きるのか? 私もそう考えて悩んだことも何度もあります。こせば十代の頃,進路のことや家のことなど数々悩みを抱えていました。その時に考えたのは「今は悩みがあるかもしれないけれども,それは考えが未熟だからであって,大人になればきっと悩みもなくなるはずだ」という漠然たる期待を抱いていたのを覚えています。(その悩みが,生きている間つづくのだと悟った時の衝撃も…)

 人は必ず何事かに悩みます。それを一言に集約することは難しいですが,どんな種類の悩みも究極的には,「なぜ人は生まれ,生きるのか?」との“生存の不安”に行き着くのではないでしょうか。これは人が必ず突き当たる永遠の問いなのです。それもそのはずで,この世に生を受けたどんな人であろうとも,自らの意志によって生まれてきた人はいないのです。生命誕生の神秘は奇跡的ではありますが,一方で,それは受け身なのだとも言えるのです。オギャーと叫んだ瞬間から,自分の言葉で人生を意味づけしていく「長い旅」が始まるのだとも言えるのです。

 ふり返って高校時代に,忘れられない書物との出会いがありました。明治の時代,内村鑑三というキリスト教者にして魅力的な思想家の『後世への最大遺物』という一冊です。これは明治二七年夏,内村鑑三がキリスト教青年学校の学生に対して行った講演録で,口語体の読みやすい語りです。

〈人はいったい何のために生まれて,どのように生きるのが正しいのか?〉,そんな漠たる煩悶を抱えていた私に,内村鑑三は明瞭に,かつ力強くその意義を開示してくれました。今日は,その内村鑑三という人物が残した言葉を手がかりに,人生の意義について少し考えてみたいと思います。 

 幕末生まれの内村鑑三は高崎藩士の長男で,キリスト教入信のきっかけとなったのは札幌農学校への入学でした。その家族の死や病,失業,仲間や社会からの批判など,数々の苦難を乗り越えてきた鑑三は「人生の意義」を次のように説きます。

《私は何かこの地球にMemento(モメント) を置いて逝きたい,私がこの地球を愛した証拠を置いて逝きたい,私が同胞を愛した記念碑を置いて逝きたい。それゆえにお互いにここに生まれてきた以上は,われわれが喜ばしい国に往くかも知れませぬけれども,しかしわれわれがこの世の中にあるあいだは,少しなりともこの世の中を善くして往きたいです。この世の中にわれわれの Memento を遺して逝きたいです。》

 明治27年といえば,日本が近代国家として最初の対外戦争となった日清戦争が起こった年です。内村鑑三は,その高揚と不安の時代を生きる青年たちに対し,ゆるぎない言葉で語りかけました。生きることを自己完結的にとらえていた私には最初はピンときませんでしたが,よくよく考えれば,たしかに私の「生」は自ら意志した結果ではなく親から受け継いだ命であり,それを「後世」という次の世代への縦軸の橋渡しでもあるのだ。さらに「地球」という横軸の発想(近年,SDG‘sという地球規模の視点があたり前に浸透していますが)が大きく視野を広げてくれました。

 さらに,人が後世に遺せる遺物(レガシー)には,お金や事業そして思想(文学や教育)などがあるが,これらは誰にでも残せる訳ではない。そして,誰にでも残すことができる最大にして最高の遺物=〈人生の最高価値〉が何なのかを説きます。

《それならば最大遺物とはなんであるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる,ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で,利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。》

《しかして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと,(中略)失望の世の中にあらずして,希望の世の中であることを信ずることである。この世の中は悲嘆の世の中でなくして,歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して,その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということであります。その遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないかと思う。》と説き,「他の人の行くことを嫌うところへ行け 他の人の嫌がることをなせ」といった格言とともに,歴史人物のエピソードを紹介します。

 もちろん,これらの言葉はキリスト教信仰に深く根ざしています。私自身はキリスト教者でもなく,ごく一般の世俗的な高校生でしたが,そんな私にとっても,

《後世の人にこれぞというて覚えられるべきものはなにもなくとも,あの人はこの世の中に生きているあいだは,真面目なる生涯を送った人であるといわれるだけのことを後世の人に遺したい。》 という

独自の信仰世界を開いた思想家・内村鑑三の純粋なゆるぎない言葉は,“生きる意味”の何かを開示してくれた書物となったのでした。

 皆さんには今日の話をひとつのヒントに,自分自身の言葉で「なぜ生きるのか」についての答えを自ら紡ぎ出し,これからの長い人生の旅に立ち向かっていってもらいたいと心から願い,修業式にあたっての講話と致します。

 

【参考文献】

  内村鑑三 『後世への最大遺物・デンマルク国の話』(岩波文庫)

  若松英輔 『内村鑑三をよむ』(岩波ブックレット №845)

令和4年度卒業式 式 辞

 今年の冬は例年に比して雪の少ない冬とはいえ,心身を凍てつく厳しい寒さも,ようやく和らいだかに感じられる季節となりました。ここ色麻にも日を追うごとに春の芽吹きを感じる弥生の節目を迎え,はるか船形の残雪や,校地の木々にも確実に春光の柔らかな日差しが差し込んでくるのが実感されます。このような佳き日に,これまで地域で見守り寄り添ってくださった多数のご来賓の皆様,並びに本校教育活動にご支援をいただいた保護者の皆様方が一堂に会し,令和4年度卒業式をかくも盛大に挙行できますことは,卒業生はもとより在校生,教職員にとりましてもこの上ない慶びでございます。

 ただ今,高等学校三カ年の課程を修了し,卒業証書を授与しました農業科22名,農業機械科29名,生活技術科16名の卒業生の皆さん,ご卒業おめでとう。教職員一同,卒業生の門出を心より祝福いたします。とともに,本日 手にした卒業証書は,校訓「耕心」のもと,本校の全教育課程を修めた証しであります。それは自身の努力もさる  ことながら,すぐそばで支え励ましてくれた仲間,恩師,ご家族,地域の皆様方の深い愛情と温かい支えによってもたらされた共同の結晶でもあります。その達成と感謝を胸に刻みつつ,一生涯の誇りとして忘れずにいてください。

 3年前の入学式,大きな期待と不安に胸を膨らませてはじまった加美農での生活も今日で最後となります。今,皆 さんが高校生活を振り返ったとき,それは何色の思い出として映るのでしょう。皆さんの脳裏に去来する思い出には,実に多くの色があったろうと推察します。本校の自然豊かな農場での部門実習や,耕心寮での入寮生活,先輩や後輩との居室生活など,普通高校では決して味わうことのできない教育体験を積み重ねてきました。そこでは,自然生命の尊さと愛おしさはもとより,寮生活の規律の中で仲間たちと生活をする喜びなど,学校教育の基本となる共同的な価値を体得してきたものと思います。自然に抱かれ,仲間に支えられ,地域に見守られている,そのことを実感することができたのは,本校創立以来の伝統の力であり,それを正統に受け継いだ加美農生の皆さんの頑張りの賜物であることに違いありません。

 今年度の出来事で特筆すべきは,中断していた学校行事が再開されたことです。5月全校田植え,10月加美農祭一般公開,収穫感謝の会。そして11月には韓国水原農生命科学高校との親善交流がリモートで再開にこぎつけることができました。

 また,農業クラブや家庭クラブの成果と致しましては,まず農業クラブ各種大会での活躍が挙げられます。高い技能が求められる平板測量競技会では県大会二連覇を達成し,全国大会出場を果たし,見事,優秀賞に輝きました。家庭クラブ活動も,長年の交通安全啓発に対し加美警察署から感謝状が贈呈され,先の宮城県高校生地産地消お弁当コンテストにおいては,大崎耕土にちなんだ本校考案メニューが,優秀賞及びWEB投票特別賞に選出され,イオン系列で一般販売されたことがマスコミでも取り上げられました。さらには,5年に一度の大会で全国和牛共進会予選会への出場,年明けには念願であった「ASIAGAP」の認証という吉報を受けました。これは県内では2校目,穀物部門では県内初となります。

 こうした本校の取組に対し,今年度キャリア教育優良校として文部科学大臣表彰の栄誉を受けることができました。受賞の理由となったのは,本校の実践が地域協働において《継続》して行われたこと,その上で《高校生の力》が存分に発揮されたことが大きく評価されました。改めて,本校生のひたむきな姿勢に敬意を表したいと思います。

 さて,予期せぬ災厄が出現して,はや3年の月日が流れました。皆さんの高校生活は,この未知のウィルス拡大の時期と重なり,学校生活や寮生活がこれまでにないほどの制約を受けました。このような桎梏からいつになれば解放されるのか。先の見えないもどかしい葛藤が,全国,全世界の人々の声なき声としてありました。そうした日常に,変化の兆しが少し見え始めてきている昨今ではありますが,こうした不条理が,人生の場面において不意に出現することは,人知を超えて今後もあり得るのです。だからこそ,人々は立場を越えて団結し,人類史上記憶されるこの苦境の意味を忘れずにいなければなりません。人類はこうした不測の経験をバネに,共通の価値を創造し,困難を乗り越えてきたのです。これから私たちはどんな未来を築いていくのか。それこそが世界の課題であり,次代を担う皆さんに課せられた使命でもあります。皆さんの果敢な勇気と行動力によって,この不透明な逆境を打開し,人々の心に希望の火を灯していくこと。そのことを切に願ってやみません。

 今皆さんの手には,自身の人生を何色にも染めうる自由意思が与えられています。義務教育九年,高等学校三年の学習を土台に,自らの人生に思い思いの色を描いていってほしいと思います。

 遠く未来を見渡せば,情報技術革新がさらに進展し,人口知能が社会の先端を行こうとも,それは生活の利便性となっても,生存の安寧はもたらさないことを,私たちは本能的に理解しています。なぜなら,人間の命は,食べ物や自然環境という基本要件を抜きにつなぐことは不可能だからです。これからも,農業が人間生活の根幹を支える営みであることに変わりはありません。近い将来,世界規模で,農業を中心とした政策転換がなされる日がやってくるかもしれません。その時こそ,農業への見識を有する皆さんの真の出番なのです。

 高等学校での学習は本日でひと区切りとなりますが,それは学びの完結ではありません。皆さんはそれぞれの道において,新たな課題と向き合い,社会というより広いフィールドにおいて,生涯にわたって学び深めていくことになります。それは自己実現を果たすという目的だけではなく,よりよい世界,すなわち“平和”を希求する共通の願いに連なるのだ,と私は信じています。

 昨今,人生100年時代が叫ばれています。だとすれば,高校三年の皆さんは今後約80年のというスパンで,この世を生きます。100年という時間を一日の時間時計に置き換えてみると,18歳はおおよそ午前4時半にあたります。すなわち,日が昇る前のまだ薄暗い,夜明けの前に皆さんは立っているのです。これからが夜明けであり,本当の自分の旅がはじまるのです。

 そんな皆さんに,最後のメッセージです。それは,「物事の本質をつかむ」という姿勢です。難しいことではありません。古今東西の常として,私たち世俗には,時に虚偽がまかり通ることがあります。そうした時こそ,大地とともに学習を積み重ねてきた見識がものを言うのです。自然はまっすぐに人の心を映し出します。そのことを体感している加美農生だからこそ,混沌とした世の中にあって,謙虚に物事の本質を見極める人材として羽ばたいてもらいたいし,そこでこそ本校で修めた学習価値が輝くのです。

 これからの行く手にどんなに荒波が待ち受けようとも,校訓であり寮是にも掲げる「耕心」の精神,「よく土を耕そうと志す者はまず心を耕さなければならない」という志を実践し,自分たちの未来地図を,力強く,そしてしなやかに彩っていくことを願ってやみません。

 

癸卯を迎えて“和”を思うー令和5年の感慨

 新年おめでとうございます。皆さんは2023年の新春をどのような思いで迎えたでしょうか。今年の干支は癸卯(みずのとう)です。うさぎは古くから月との縁も深く“つき”を呼ぶ縁起のいい動物といわれます。そんな幸運な一年になることを真に念願したいです。

 さて,今日は「和」をめぐる話をします。新年を迎えるにあたり「和」という言葉に思いを馳せました。2022年を表す漢字が「戦」だったからでもあります。

 繰り返しにはなりますが,今こうして当たり前の日常が送れているという事は,実は奇跡的な幸運だというのが世界の現実だということです。そのことを皆さんも体験的に身にしみて実感するはずです。世界を見渡せば地球温暖化や気候変動,食糧問題,自然災害,ウクライナの戦争,コロナパンデミックなど,予想を超えた多くの事態に直面しています。このことに無関心ではいられません。なぜなら,自分たちだけが危険から守られ,安全に生き延びるということは到底あり得ないことをよく知ったからです。和―調和や安全とは,他者や他国とのバランスの中で保たれる状態であり,相互の努力によってもたらされるものです。

 今ここに掲げた「和」とは,全体の調和であり世界の平和でもあります。さらに和には和服,和食など日本の独自性の意味も込められています。2023年はそれぞれ個性を発揮しながら,調和と平和を大切にしていきたいと願います。しかしそれらは誰かが授けてくれるギフトではありません。私たちの強固な意志と不断の努力によってしか実現し得ない高い理想です。そのことにぜひ心を寄せて,未来を描いてください。

 最後に,「和」に関わる2つの格言を紹介します。1つは「和をもって貴しとなす」いさかいなく仲良くするということが貴し。貴しとは最良の価値であるという意味です。論語や聖徳太子の宣言にもある社会の理想で,皆さんも聞いた事があるかと思います。

 もう1つは「和して同ぜず」というこれも古代中国の格言です。君子は周囲と仲良くすることを大切にするけれども同ぜず。安易に同調しないという強固な態度です。皆が言うから私も賛同するというのは,周囲に流され主体的ではありません。全体の和を尊重しつつも,自分自身の考えや判断をしっかりと持つべきだという格言です。

 今年度もあと数ヶ月となりました。3年生は高校生活のしめくくりでもありますので,新しい年にあたり「和」の精神とともに,それぞれにまだ眠っている可能性を自ら育て上げてください。そしてそのためにやるべき事とは,毎日の授業そして目の前の生活を誠実にこなしていく地道でひたむきな努力です。近道はありません。皆さんの大きな夢が毎日の積み重ねで花開いていく事を心から祈念し,休み明けの講話といたします。

令和4年度 後期始業式あいさつ

 早いもので校地内を見渡せば,春に全校で植えた若々しい苗も大きく色づき,頭を垂れるほどの秋の実りを迎える季節となりました。

 令和4年度も折り返しの6ヶ月が過ぎました。年度初めに立てた目標がそれぞれにあったと思います。学習・部活動・クラブ活動・進路などどれくらい目標に近づくことができたでしょうか。また,新型コロナウィルス感染第七波の終息はまだ先の状況ではありますが,この未知のウィルスとの“共存”を前提に,日常生活を安全に上手に営んでいく心構えが必要と思います。今後も周囲への思いやりの気持ちで感染対策を今しばらく継続してください。特に3年生は進路決定の大事な時期ですので,健康管理もしっかりと行ってください。

 今年度の加美農祭は「校内発表」だけでなく,翌日「一般公開」も実施予定で計画をしていきます。多くの方々に,本校の教育活動の成果や,加美農生の活躍ぶりをぜひ見ていただきたいというのが一番の理由です。全校生徒心をひとつにして,この最大の行事を成功させてください。主役はここに居る皆さんです。そして,収穫感謝祭や伝統の寮祭も予定どおり行います。農作物の収穫に感謝し,皆さんたち丹精込めて育て上げた自然の恵みを皆で共に味わいたいと思いますので,楽しみに盛り上げていってください。

 さて,始業式でのお伝えしたメッセージの中で,「どんな困難があってもそれを乗り越え、立ち上がっていく力を日々の学習の中から身に付けていってほしい」という「レジリエンス」という話をお伝えしました。ある時,生徒の方から,「どうすればそういう力が身につくのですか?」という質問を受けたことがありました。皆さんならどう考えますか?

 私の答えはこうです。第一に自分に課せられた又は自ら課した毎日の積み重ねを丁寧に心を込めて継続していくことです。毎日の授業もその心構えで積極的に参加してください。第二に大切なことは,「自分の苦手なことに敢えて挑戦する」ということです。楽なことよりは,少々の困難を選んでください。得意なことも大事ですが,苦手なこともやってみてください。好きなものだけを食べていても,健康な体にはなりません。いつも真ん中にいる人は,端っこに寄ってみてください。いつも後ろの人は前に行ってみてください。確実に見える風景が変わるはずです。いつも同じではない,視点の幅を持つということが,自分自身の思考の土台を大きく広げます。それが立ち上がる時の力の源に繋がるはずです。

  令和4年度後半の加美農を、一人ひとりの力を最大限に発揮して盛り上げていってほしいと願います。加美農生はこんなものではない,まだまだ出し切っていない余力が眠っているはずです。

 皆さんのさらなる活躍と成長を心から期待して,後期始業式の講話といたします。

「命」に触れる学び-コロナ禍の学校生活

 新入生54名を迎え,令和4年度が始まりました。拡大が続く新型コロナ対策の中で,生徒の皆さんは毎日の授業をはじめとした実習や学校行事,部活動にも意欲的に取組んでいたと思います。

 今年5月には3年ぶりとなる全校田植えを実施しました。心を一つに農業高校ならではの伝統行事の「誇り」を体感することができたのではないかと思います。皆さんの真剣な眼差しと団結の笑顔こそが本校の活力の源だと実感した次第です。

 部活動では,地区総体及び県総体が無事開催となり各部大いに健闘しました。特に相撲部の6年ぶりンターハイ出場。また農業クラブでは,平板測量競技で二連覇を達成。他にも5年ごと開催の全国和牛共進会高校の部出場で優秀賞や意見発表県大会優秀賞,情報処理競技優秀賞など,皆さんの生き生きとした活躍が各所でありました。皆さんの活躍を頼もしく思う反面,加美農生の底力ならば,もっともっとできるはずだという欲も湧いてきます。自分の可能性を限定し決め付けるのはもったいない。精根尽き果ててはじめて自分の限界が分かるのです。挑戦する精神にこそ道が拓けます。失敗を恐れずにチャレンジする精神を。特に3年生は最後の仕上げの夏です。自分の未来にしっかりと向き合い,悔いのない夏休みを過ごしてください。

 さて,今日は「命」というテーマで話をしたいと思います。皆さんは日々の学習や実習を通じて,多様な生き物の「命」と向き合っています。そして世界に目を向ければ,コロナ感染によって亡なる方,自然災害や戦争の犠牲で命を落とす方もいます。こうした生と死の現実をどう考え,何ができるのかということは,これからも考えていってほしいテーマです。なぜなら,そうした知らない人の生活や命と,私たちの命とはどこかで繋がっているかもしれないという思いがあるからです。現代の生物学の知見によれば,DNAの解析によりこの地球上に現存する生物は一つの祖先の子孫であるという研究成果がありました。もしそうだとすれば,すべての生命が種別や国境を超えて繋がっているとも言えるのです。

 農業教育の根本は命に向き合う学習です。私は命と向き合いながらひたむきに生きている人が一番尊いと思っています。これから社会を担う皆さんはそういう自信と自覚を持って生きていってほしいと思います。

 先日ある本を読んでいて「命は誰のものか」という一文と出会いました。「あなたの命はあなたのものではない」というのです。自分の命は自分ものだと確信的に思い込んでいたのですが,そうではないのだと。それは近代以降の発想であって,あなたの命はあなたが作ったものでも,ましてや買ったものでもない。確かに与えられた命なのです。私の解釈は,自分の命は自分のものだけれども,自分だけのものではない,多くの縁ある人との繋がりの中にあるという考えに至りました。

 長引くコロナ感染という先行き不透明な時代の中で,いまなお不安がある人も多いと思います。しかしながら,こうした困難時代だからこそ,自分と周りの人の命を大切に思いながら,これからの人生を力強く切り拓くための言葉=信念が持てるような知的冒険をしながら,有意義な夏休みを過ごしてほしいと切に願います。

 以上で,休み前講話を終わります。夏休み明けにはまた全員元気に再会しましょう。

令和4年度 入学式式辞

 ただいま、入学を許可いたしました農業科二十二名、農業機械科二十二名、生活技術科十名の新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。皆さんは自らの志によって高校入試の関門を突破し、義務教育課程を修了後、高校生活への期待と不安の入り交じった中で、本校入学の日が来ることを心待ちにしていたものと思います。高校への進学は、進路選択大きな一歩です。今日から晴れて加美農業高等学校の生徒となり、希望に満ちた学校生活がスタートします。教職員・在校生一同、新入生一人一人を心から歓迎するとともに、加美農生として共に学べることに大きな喜びを実感しております。

 振り返れば、皆さんが今日ここにこうしているのは、決して自分一人の力によるものだけではありません。これまでの十五年間を時に厳しく時に優しく慈しみ育んでこられたご家族の惜しみない愛情と、義務教育の九年間を通じて熱心にご指導くださった多くの先生方、そして遠く近くで常に見守ってくださった地域の方々の熱心な支えによって導かれてきたのであります。改めて今日、これまで心を寄せてくださった方々の願いを心に刻み、感謝と決意の心をもって高校生活の第一歩を踏み出していってほしいと思います。 

 さて、加美農業高等学校は、明治三十三年の開校以来、今年で百二十二年の歴史を刻んで参りました。長き歴史と伝統を誇る本校は、農業のスペシャリスト育成を担う目的により、地域の皆様方からの期待に応えるべく日々発展進化していくことを使命としております。その使命を実現するために、自身の心を耕すという意味で、『耕心』という言葉が校訓となっています。土を耕すのと同じように、心を耕す。本校はこの校訓のもと、高い志を持ち、自ら意欲的に学び、情操豊かで、心身ともに健全な品格のある生徒、そして、社会性を身につけ地域を支える人材の育成を目指しております。これまで実に多くの卒業生が、地元はもとより、県内外、各方面で活躍されております。新入生の皆さんも、今日から加美農業高校の一員として常に高い志を持ち、多くの先輩方と同じように、社会の中枢で活躍できる有能な人材として社会に羽ばたいていくことを期待しています。 

 ここで、これからの本校を担う新入生の皆さんに、二つお願いをします。

 一つは、「〈夢〉を持ち続ける」ということです。何か一つどんな小さな事でもかまわない。自分がそうありたいと願う大いなる理想に向かって粘り強く努力していってほしいのです。この不透明な時代にあって、本校での三年間の学びは、必ずや皆さんの夢の実現のための礎となるものと確信しております。自分一人であきらめてしまいそうなときは、先生や同じ仲間と励まし合い、切磋琢磨しながら、夢の実現に向かって突き進んでもらいたいのです。そのとき大事なことは挑戦する意志、チャレンジする精神です。人は時に安定を求めるあまり、変化を恐れて立ち止まってしまうものです。しかし、変革を恐れていては夢の実現はありません。高校での学習活動は挑戦の連続です。一歩踏み出す勇気と、新しい自分との出会いを果たしていってください。必ずやそれがかけがえのない財産となって、揺るぎのない自信を与えてくれるに違いありません。

 二つ目は「〈思いやりの心〉を持ち続ける」ということです。

 人は一人では生きてはいけない存在です。必ず誰かとの、あるいは何かとの関わりの中で存在しています。だからこそ、自分と関わるすべての人や物の尊厳を認め、思いやってほしいのです。教室の中で、寮の中で、家庭の中で、自然の中で・・・。この不安の時代に求められていることは明瞭です。「対立」ではなく「対話」。「自己を主張すること」ではなく、「他者を受容すること」です。お互いの違いを違ったままで尊重し合いながら相手を思いやる。そんな寛容な広い心を持った生徒になってください。日常の些細な出来事に一喜一憂してしまうこともあるかもしれません。それでもなお、思いやりの心を忘れないでください。難しいことではありません。隣にいる友だちに笑顔で「おはよう」と挨拶する。その一言がどれだけか人の心を癒やすはずです。困っている人や悩んでいる人がいたら、迷わずそっと手を差し延べてみてください。そのぬくもりに確かな答えがあるはずです。

 この二つの事を、今日から行動に移してみてください。きっと何かが変わっていくはずです。 

 さて、農業の「農」という字には、「実る」という意味があります。農業とは命の営みそのものです。じっくりと土を耕し、心を耕し、苦労や喜びを寄せ合いながら、豊かな実りを迎え入れられるよう、希望の種を蒔いていってください。自然の厳しさ優しさと対話をしながら、大地に根ざす力を尊び、理想の志を高く掲げてください。皆さんのそうした確かな学びを、本校農業教育は保証し続けます。もちろん、人間は迷い間違う存在です。つまづき倒れることもあります。それでもなお、立ち上がっていくしなやかさと芯の強さを、本校の広大な自然環境の中で育んでいくことを心から願っています。

令和4年度 始業式あいさつ

 このたび,宮城県図書館からの異動により赴任いたしました根岸一成といいます。どうぞよろしくお願いします。先ほど新任式にて13名の転入の先生方を紹介していただきました。また今年度は,54名の新入生が入学してきます。新入生は高校生活への大きな期待と同時に不安も抱えているはずです。特に,耕心寮での寮生活は不安が大きいものと思います。皆さん一人一人の溌剌とした姿勢が、本校生のお手本になります。後輩を導くよき先輩として後輩を暖かく迎え入れてほしいと思います。

 さて,始業式にあたり、校長先生から皆さんへメッセージが3つあります。

 1つは、今年の4月1日から民法の改正により成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたということです。何が変わったのかといえば、18歳になった人は親の親権には服さず、法律上も独立した大人として扱われることになります。誕生日を迎えた3年生は、正真正銘の「成人」となります。では、成人になるとはどういうことなのでしょうか? 一言で言えば、「社会的責任」が生じるということです。これまでは誰かが代わりにやってくれていたことが、これからは自分自身の責任において行う場面が増えるということです。学校内だけでなく、学校外においても今まで以上に、責任ある言動や行動を心がけてほしいと思います。

 2つ目は、失敗やつまずきのなかに、新たな創造が生まれるということです。人間は迷い、つまずく存在です。大事なことは、そこから前を向いて立ち上がるということです。心理学ではこれを「レジリエンス」(回復する力)と言います。皆さんにはどんな困難があってもそれを乗り越え、立ち上がっていく力を日々の学習の中から身に付けていってほしいのです。

 これまで人類がいくどの疫病や自然災害を乗り越えて何千年も前から今日まで生き抜いてきたのは、この回復する力のDNAが備わっていたからなのだと思います。現在の感染状況も同様です。現在のマイナス状況を乗り越え、ここから立ち上がっていくためにも、力と知恵を結集して前に進んでいきたいと思います。 

 3つ目は、新型コロナウィルスの感染状況は続いていますが、基本的な対策をしながら、学校行事は進めていきたいと思います。そのためにも、皆さんの日頃の一人一人の協力がぜひ必要です。そして自分と、そして周りにいる仲間を思いやること。そのことを常に忘れないでください。思いやるとはどうする事なのかを皆さん一人一人が考え、実践して欲しいのです。答えは見つかるはずです。1日1回でいい、それを実践に移してください。必ず何かが変わっていくはずです。

 令和4年度の加美農を、ここにいる一人ひとりの力で盛り上げていってほしいと願います。そして校長室のドアはいつでも開かれています。何かお話したいことがあれば、いつでも来ていただいて構いません。